いつもご視聴頂き誠にありがとうございます。釣りって、学べる。です。今回はアオリイカを解説いたします。
標準和名アオリイカ 【障泥烏賊・煽烏賊】
ツツイカ目閉眼亜目ヤリイカ (ジンドウイカ) 科アオリイカ属
学名 Sepioteuthis lessoniana(セピオテウティス・レッソニアナ)
近年のエギングブームによりその名を馳せたアオリイカは、それまで料亭でしか味わえなかった高級食材として、イカの王様として扱われていました。胴は丸みを帯び、左右に大きなヒレ (ミミ)をもつのが特徴です。特にヒレは珍重され、刺身としてコリコリとした触感が好まれています。釣趣もよく、ハリに掛かった後の力強いファイトがアングラーを魅了します。エギング、泳がせ釣り、ヤエンなどで主に狙いますが近年は手軽にできるエギングに人気が集中しています。今回はそのようなアオリイカの授業をしたいと思います。最後までよろしくお願い致します。解説する項目はつぎのとおりです。
- 生態と生息域
- 機動性と色覚
- エサの捕らえ方と食べ方
- エサとエギの関係
- 雌雄と体色
- アオリイカの一生
- 生息範囲
- 行動範囲
- 攻撃性用心深さ・好奇心
- 釣れる時間帯
- 天候や気圧と活性の関係
- アオリイカ雑学
この12項目について解説致します。
生態と生息域について解説致します。
生息域と種類について、西は、インド洋西部・紅海から東はハワイ諸島、北は北海道南部、南はオーストラリアまで生息しています。日本で確認されているアオリイカは、遺伝子レベルの分析により、シロイカ型、アカイカ型、クアイカ型に分化されることが判明しており、鹿児島以北に生息するほとんどがシロイカ型に分類されます。また、太平洋側と日本海側でも遺伝的な差異が確認されています。
産卵と水温について、アオリイカの成長は早く、一年ほどで一生を終えます。適正水温は20~30℃で、15℃以下・35℃以上になると死に至ることがあります。日本国内で30℃を超える海域はほぼありませんが、15℃以下に下がる海域では生息域が限られ、低水温期は深場の温かい水域へ移動し、水温が上がる時期になると移動する傾向にあります。活発に捕食行動をとる水温は25~30℃。春の不安定な時期よりも秋の方が食いがよいのはこの影響です。通常の産卵シーズンは4~6月。水温17℃を超えると浅場に移動して産卵を始めます。また、高水温域の方が産卵回数が多くなります。胴長20㎝以上のメスになると産卵可能となり、海底にあるアマモなどへ好んで産卵し岩や障害物にも産みつけます。約1か月ほどで5~10㎜の子どもが孵化し3か月後には10倍のサイズまで成長します。暗い場所を好み、日中は深場(3m以上)、夜間は湾内の浅い場所でも釣ることができます。夜間は満月の方が釣果がよく大型が期待できます。また、低水温ほどボトム付近に生息するため、甲殻類(エビなど)を好んで食べ、高水温ほど活発に行動するため魚類を多く食べます。
体型と体色について、ずんぐりした体型をしていますが、ヤリイカなどと同じツツイカ目に属します。それは分厚いフネ(甲)がないことでも確認できますが、ヤリイカなどと違い沿岸を主な生息域とするため、どっしりとした体型になっています。特にミミと呼ばれる外套膜(がいとうまく)が大きいのが特徴です。瞬時にエサに襲いかかる瞬発力には欠けるものの、奇襲や待ち伏せができるホバリング能力、弾丸のように伸びる2本の触腕でエサを襲います。体色を状況に合わせて変化させる能力があり、海中で透き通るような透明色に変わったり藻に隠れるように茶褐色へと変化しカモフラージュします。
機動性と色覚について解説致します。
動き方について、一般的に、アオリイカは泳ぎが下手だといわれていますが、人間から比べれば驚異的に上手く泳ぐことができます。しかし、魚類のようにハイスピードで自在に泳げるのではなく、ホバリングなど水流に逆らった泳ぎが得意です。通常移動は外套膜(がいとうまく)をヒラヒラと動かし、漏斗を後ろ向きにして海水を排出しながら前進しますが、驚いたり逃げるときは漏斗を前向きにして海水を吐き出し、少量のスミを吐いて急加速で後進します。エサが視界に入った場合、スッとエサに近づくホバリングしながら待ち構えます。そのとき触腕をまとめてロックオン体勢を取り、エサに向かって真っ直ぐに見定めます。
視力について、イカは視力が良いとして知られていますが、人間に比べてどうでしょうか。海中は青の世界であり、白色の物を持ちこんでも青色に見えます。極端に言えば、全ての物は青と黒で分けられてしまいます。しかし、自然発光する物質については、その色を発色することが可能です。このように青の世界で生きているアオリイカは、青緑の色域を主に関知することができます。海藻と魚の色の違いをはっきりと判別していると考えられています。さらに優れた機能は、陸上から水面を見た場合、波が光の乱反射によって海中が見えづらい現象が起きますが、アオリイカは目に偏光機能を持っており、海表面の乱反射はもちろん、海中の小さな物質による乱反射も防いでいます。このため、遠くまで見通すことができ、また、陸上の釣り人もはっきり見えていると思われます。
光への反応について、アオリイカだけではなく、海の生物すべてが光に対して敏感に反応します。アオリイカの場合、暗い場所を好む傾向にあり、日中は深場へと移動しています。暗い間はバラバラに行動をとり捕食行動していますが、日中は警戒心を高めて整列して移動することが多いです。
弱点について、イカの細胞は急激な塩分の濃度変化に弱く、特に真水に触れると細胞が破壊されてしまいます。このことから、河口域など真水が混じる海域ではなく、濃度が安定している場所を好む傾向にあります。また、長雨の年は産卵に影響すると言われています。
エサの捕らえ方と食べ方について解説致します。
餌の捕獲について、陸上に棲む肉食獣や海中に生息するフィッシュイーターなど狩りをする生き物には、獲物を追い回して仕留めるイメージが強いですが、実際は待ち伏せしている時間の方が長いです。これは効率よく獲物を仕留める手段でありますが、失敗も多く狩りはリスクが高いことが伺えます。アオリイカも同様に、基本は岩陰などで獲物を待ち伏せし、獲物を確認すると触腕が届く射程内までそっと近づき、0.02秒という速さで触腕を発射して捕獲します。魚類に対しては主に頭部を狙い、エビ類に対しては腰付近に狙いを定めています。
捕食について、触腕で捕獲したら腕を縮めながら後退し、魚類は逃げられないように後頭部をかじります。その後、自分が安全だと思える場所へ移動して食べ始めます。エサ釣りでは内蔵が好物だと言われていますが、飼育水槽では内蔵は捨て筋肉を好んで食べているようです。これは獲物の鮮度による影響があるかもしれません。また、水槽実験では小さなエサは丸ごと食べてしまうようです。通常アオリイカは生きた魚やエビを捕らえて食べますが、一度死んだ生き物を食べると次からは食べられるエサとして認識するようです。捕食行動は時間帯によって異なり、日中など明るい時間帯は集団で行動を取り、絶えず外敵を意識して岩陰などに隠れています。まづめ時になると活発に行動を始め、岩陰から出て獲物を積極的に求めます。高活性時や産卵前の荒食い時には、海面近くまで魚の群れを追い、ナブラが立つこともあります。
エサのサイズについて、アオリイカは自分の大きさの半分以下のエサを効率よく食べる傾向にありますが、生息域にエサが少なかったり、何度も狩りに失敗して空腹時の場合は、自分よりも大きな魚でも襲います。エギングでエギのサイズを選ぶ基準は、その時期のアオリイカのサイズに合わせることが基本となります。もちろん大型のみをターゲットにする場合は、できるだけ大きなエギが有効となりますが、アオリイカは小型のエサから食べる傾向にあります。また、周囲に捕獲できるエサがいない場合、空腹時に共食いするほどです。成長速度が極端に速いアオリイカは、それだけ多くの食事が必要であり、どう猛な一面がありますが、そのためルアー釣りでは狙いやすいターゲットとなっています。
エサとエギの関係について解説致します。
エサの種類とエギの形状について、魚類と甲殻類がエサのメインとなりますが、低水温期はボトム付近にいるため、甲殻類が主食になりやすくなります。エギの発祥は「焼き餌木」とされており、焼けた木にイカが抱き付いているのをヒントに考案されたものです。当時は魚型が主流でありましたが、漁法が発展すると共にエビ型が主流になってきました。一般的に使用されているエギはエビ型のもので、ショアからの釣りの場合、ある程度重量がなければ沖へ飛ばせないため比較的重く設計されています。このため、ボトム付近を狙うのに適しており、エビ型が主流という考え方もできます。逆に海水温が高い状況では、アオリイカの活性が上がりボトムだけでなく各レンジで食餌行動をするようになります。エビはいつもボトム付近にいるため、このときは魚をメインにハンティングしていることが考えられます。魚型のエギは少ないですが、もしかすると高活性時は有効かもしれません。
ハンティングするサイズについて、アオリイカが狙い定めるエサのサイズは、自分の大きさの半分以下をメインとしているようです。しかし、エサが少ない状況下ではこればかりではなく、共食いも行われています。お腹が空けばよりどう猛化し、自分よりも大きなサイズのセイゴ(スズキ)でさえハンティング基準に入っています。しかし、普段は安全にエサが取れるように警戒心を持っているため、適正なサイズのエギで狙うのがセオリーとなります。
生きていないエサについて、エサ釣りでは、アジなど活きエサで釣るのが基本となっています。生きていれば一か所に留まることなく泳ぎ回り、広範囲に探ることが可能なため、断然活きエサの方が釣れます。しかし、死んでいるエサでも釣れることがよくあります。飼育水槽に死んだエサを与えた結果によると、最初は手を出しますが離してしまいます。ところが、底に落ちたエサを1度食すると、次からは普通に食べます。エギはその死んだエサと同じですが、釣りのジャンルから分類するとルアー釣りに属します。ルアー釣りの基本はいかに生きているかを演出するというよりは、どうやって魚を騙して食わせるかにあります。エギングも同じで、アオリイカを騙して釣るのが基本となり、イカがエギを離す前に小さなアタリでアワせるのも有効です。
好みのエサについて、ある水槽飼育実験のデータで、 活きた魚類66種、甲殻類10種、死んだ魚2種を投餌した実験結果があります。ほとんどのエサを捕食したそうですが、 クサフグやカワハギは著しく捕食率が低かったようです。また、この中でまったく捕食されなかったのがカニ類です。逆に捕食率が高かったのはキシエビ、 トウゴロウイワシ、サツキハゼ、イソスジエビ、その他ハゼ属。意外にもマアジの捕食率は他の魚に比べて低く、マダイやイサキも同様に低かったようです。死んだエサについては、ウルメイワシ、マイワシ、キビナゴの捕食率が高かったようです。
雌雄と体色について解説致します。
オスとメスの判別について、アオリイカの雌雄は、体表の模様で容易に判別することが可能です。横筋模様がオスで、斑点(水玉)模様がメス。オスの方が成長速度が早く、大型になりやすいです。シロイカ型は3㎏くらいが最大サイズで、それ以上はアカイカ型がほとんどで、6kg以上に成長する大型もいます。
メスは釣らないについて、産卵シーズンでは、ペアリング行動をしている最中はエサすら見向きしなくなります。この場合、体色が白くなっていることがほとんどで、藻場などから離れずにじっとしていることが多いです。潮による影響も強く、満潮時に産卵場が見られれば、次の満潮時には違う群れが入ってきます。また、1杯のメスのアオリイカに複数杯のオスが寄っていることが多く、熾烈な戦いをして勝者が子孫を残す仕組みです。この原則から最初にメスを釣り上げてしまうと周りにいたオスがいなくなり、イカが釣れなくなると言われています。
体色の変化について、アオリイカは通常半透明の体色をしており、海水にカムフラージュして移動します。これが岩礁帯や藻場に近づくと、茶褐色になり周囲と同色に変化させてエサを待ち構えます。また、周囲の変化を感じたり威嚇行動を取る際は体色を次々に変化させます。海上から濃い茶褐色のイカを見つけたらエギを迷わず投入してみましょう。濃い色のときは興奮状態にあることが多く、積極的にエギヘアタックしてきます。運良くエギにヒットし取り込むことができたイカは、釣り上げた直後は黄土色をしています。地面に置くと茶褐色に変化し、やがて白っぽい色になります。この白色の変化はイカが弱っていることの表れなので、リリースする場合はこうなる前に行いましょう。空気に長く触れることが弱る原因となるため、できるだけネットを使って取り込み、海中でのリリースが好ましいです。また、手で触ると火傷した状態になってしまうので注意しましょう。
アオリイカの一生について解説致します。
産卵期は地域により異なるため、長期にわたりますが、おおまかな一年は次の通りです。アオリイカは水温によって大きく生活の場を変えるため、毎年同じ場所で同じように釣れるわけではありません。どちらかというと高水温を好む傾向にあり、低水温期は沿岸の水温も下がるため、沖の深場へと移動します。沖の深場という表現はどこにでも当てはまるのであまり適切ではありませんが、特に黒潮が流れる太平洋側では、南下してより水温が高いエリアへと移動します。12~1月にこの「深場に落ちる」 行動がみられ、エギングでアオリイカを狙うには最も難しい時期となります。水温が上がり始める3月以降は、水温の上昇と共に産卵のため徐々に水深の浅いアマモが生えているエリアへと接岸してきます。水温17℃がキーワードで、毎年産卵床となっている場所でも、水温が低い場合は別の場所で産卵します。また、アマモなどの海藻類の成長も重要な要素となります。アマモは冬期に種子から芽を出し、5月ごろに花を咲かせて種子を落として枯れてゆきます。春から冬までの長い間種子として海底で眠っているため、その間に海底に何らかの変化があれば、翌年に同じ場所で発芽することはありません。アオリイカの産卵は通常複数回行われ、その後は力尽きて一生を終えます。海藻などに産み付けられた卵は1か月ほどで孵化しますが、食べたエサの量や水温に大きく成長が左右されるため、秋には300g~1kgと個体差が大きくなります。そして秋から産卵する春までが一番の成長期となります。このように水温やエサの摂取量で大きく個体差がでますが、産卵期には200gほどの個体でも親となって子孫を残すこともあります。
生息範囲について解説致します。
アオリイカは、イカ類の中でも身近に生息し、砂地主体の場所や淡水が多く流れ込む場所を除けば、ほとんどの場所で釣ることができます。海水がきれいなほど生息数も多くなるので、季節ごとのアオリイカの行動に合わせて、適度に潮通しがよい場所を選択しましょう。
水深が深い場所では、冬期もポイントになります。ボトムを中心とした狙い方が有効です。岬の先端付近は潮通しがよく魚影が濃い場所です。流れが緩む場所が狙い目となります。
湾内はどこもポイントになります。養殖イケスがある場合はさらによく、イケス周りに大型の実績が高くなります。
沖堤防は場荒れが少ない好ポイントです。特に春は大型が釣れる確率が高くなります。
地磯や漁港が隣接する砂浜では、サーフエギングが楽しめます。
湾奥の漁港は夜間での実績が高くなります。藻場はもちろん、カケアガリやストラクチャーがポイントです。
河川がある漁港は、塩分濃度が低かったり、濁りがきついため、アオリイカはあまり好みません。
沖磯は一年中ポイントになりやすく、湾内に比べて水温が低い傾向にあります。特に冬期は一番最初に下がる場所でもあります。
沖磯で釣るなら地向きの実績が高くなります。沖向きに比べて穏やかな海域がポイントです。
入り組んだリアス式の地形は生物がすむのに適した環境が形成されてます。アオリイカも同様に生息数が多く、冬期でも深場であれば釣れる確率が高い場所になります。
地磯は特にまづめ時の実績が高いです。捕食行動をしている活性の高いアオリイカが狙えます。
地磯が隣接した漁港では、藻場が多く形成されやすいため産卵数が多くなります。春~秋までの長い期間狙えます。
底質が砂地主体の場所では生息数が極端に少なくなります。
行動範囲について解説致します。
潮による移動について、港湾で魚釣りをする場合、満ち潮に乗って魚が湾内に入って活発な捕食行動をとり、引き潮で潮位が下がると湾外へ出るといわれています。これはシーバスなどのルアー釣りでも同じで、潮位が上がるとそれまで浅かった場所にも行くことができるようになるため、比較的浅い場所で身を隠しているエサとなる小魚を食べることができるためです。アオリイカにもこの傾向はみられ、満潮前後に釣果がよいとされています。
日照による移動について、アオリイカは暗い場所を好んで生活しています。これはフィッシュイーターの特性で、明るい場所では身を潜めて獲物を狙えないためです。また、外敵から身を守る効果も合わせて持つことができます。夜間は浅場でも積極的に行動しますが、夜が明けて日が昇ると深く暗い場所へ移動したり、ストラクチャーなど影となる場所で身を潜めます。
まづめについて、朝まづめは暗がりから出てきて今から捕食タイム突入、タまづめは暗がりに戻る前の腹ごしらえとなります。どちらも活性が高い時間帯です。
夜間について、水深が1mもないような場所でも近寄ってきます。夜間は捕食行動がメインとなり、警戒心が薄まり浅いレンジまで浮いてくることもあります。
日中について、水深3 ~ 15mの暗がりに生息しています。藻場や岩陰などのストラクチャー周辺に移動し、集団で身を潜めていたり、近寄ってきたベイトを捕食しています。
水温による移動について、通常、アオリイカが行動できる水温は13~33℃そして活発に行動する適正水温は20~30℃と幅広いです。日本には四季により水温の変動があるため、アオリイカもそれに合わせて移動を繰り返します。水温15℃を基準に深場へ、水温17℃を基準に産卵行動をとります。沖縄などでは水温が15℃以下になることがほとんどないため、四季を通じて同じ場所に生息しています。
1日の行動範囲について、タグなどによる標識放流の調査によると、11日後に直線で120㎞離れた海域で捕獲された例があります。1日にすると約10㎞移動したことになり、人間をアオリイカのサイズに例えると、60㎞以上歩いた計算になります。しかし、これは海水温に影響されており、温かい地域では1日平均2.47㎞以下だったそうです。このようにアオリイカは海水温に非常に影響されやすく、エサを求めて回遊するというよりも、棲みやすい水温を求めて回遊していると考えられます。
攻撃性用心深さ・好奇心について解説致します。
成長を支える食欲と警戒心について、アオリイカの寿命は約1年。それでも3㎏を超えるような大物を見かけることも多いです。このサイズになると外敵に襲われることはほとんどなくなり、沿岸部では食物連鎖のピラミッドの上部に位置します。しかし、小さいときは捕らえやすく他のフィッシュイーターにとって栄養価が高い格好のエサでもあるため、早く成長をするということはアオリイカにとって文字どおり死活問題ともいえます。そのためか、成長速度は驚くべきもので、それを支える食欲は旺盛。生後1日足らずで動く物を攻撃し捕食行動をとるようになります。小さなときは自分の体長ほどの相手に襲いかかることも多いですが、自分の胴長を超えるような獲物にアタックして返り討ちにあうこともあります。ある程度成長した個体は、よほど空腹でもない限り自分の胴長を超えるような獲物に攻撃を仕掛けることは少ないです。水槽実験では安心できる大きさのエサがない場合、餓死してしまうことさえあるようです。成長しても影が横切るだけでスミを吐くような警戒心の強さも見られます。しかし、その旺盛な食欲のためエサになりそうなものへの執着は強く、食べられそうなものがあれば、とりあえず触腕を伸ばし確かめてみるという行動を頻繁にとることも知られています。たとえばエギのフォール中に対する反応がよい例で、自然界において無抵抗なエサがゆっくり落ちてくるという状況はめったにありません。いわば不自然な状況であるにもかかわらず、エギに興味を示すというよりも手を出さずにいられないのがアオリイカの根本的習性といえます。
激しい攻撃本能について、こうした捕食行動以外にエギを抱く理由として考えられるのが、邪魔な物に対する攻撃です。特に交接期のオスはどう猛で、自分のテリトリーに入ろうとする邪魔者には威嚇し、容赦ない攻撃を仕掛けてきます。メスを争うオス同士の争いは壮絶で、ときに相手に抱きつき足を噛み切ってしまうほどの激しさをみせます。他のオス以外の外敵に対しても激しい攻撃を仕掛けることがありますが、いくらどう猛とはいえ、周りにいるもの全てに対して攻撃を仕掛けるということではありません。勝てそうにない相手の場合は逃げることもあります。追い払うほどの脅威を感じない場合もあります。その判断基準は、相手の大きさが関係しているのではないかと思われます。エギングをベースに考えるならば、あまり小さなエギではわざわざ激しい攻撃を仕掛けて追い払わなければいけないほどの脅威を感じてくれません。むしろ、自分がリスクを負っても激しい攻撃をして追い払わなければいけない敵だと認めさせるには、ある程度の大きさが必要になってきます。もちろん大きければいいということではありません。そのときのアオリイカの活性にもよりますが、春先に大きなエギを使用したほうが効率よく釣果を伸ばせる理由はこんなところにもあるようです。カラーチェンジだけではなく号数のローテーションも効果的だと言えます。
発達した目について、アオリイカに限らず、イカ類がエサや敵を確認するためにもっとも重要な働きをするのは大きな目です。下等な無脊椎動物には珍しく目から得た情報を重要視しているのは、ガラス瓶に入ったエサをイカの前に置く実験からも見てとれます。この状態では、イカがエサの匂いを感じることはできないし、触ることもできないため、何度も触腕を伸ばし、エサを捕獲しようとします。目から入ってくる情報をいかに重視しているかが分かる実験です。まぶたがないイカは、極端な明るさを嫌う傾向がありますが、目から情報を得る上で、ある程度の明るさも必要になってきます。真っ暗な新月よりも適度な明るさがある満月のほうが、イカ漁には適していて、常夜灯周りに釣果が集中するのも、単にベイトが豊富だからという理由だけではないようです。また、生物が出す微細な光を捕食活動の目印にしているようで、イカを主食にしているカズハゴンドウというイルカの仲間は、自らの唇を発光させてイカを誘っているそうです。自然界の神秘でありますが、ケイムラ加工や夜光仕様のエギが、非常に理にかなったものだと言えます。
好奇心と警戒心のバランスについて、イカは発見した対象物に、興味と警戒心を持ちながら近づいていきます。興味とは、それが食べられるかどうかということで、警戒心とは、襲って大丈夫な相手か、獲物に感づかれて逃げられないか、そして狩りをするときの自身の無防備な状態警戒になります。このバランスを命がけでとりながら獲物を襲うので、慎重に近づき、一気に襲い掛かり、獲物の息の根を止めて、安全な場所まで運んでから食べるという一連の行動につながっています。
好奇心を刺激するについて、アオリイカにエギを抱かせる方法は、警戒心を刺激しないようにするだけではありません。時として警戒心を忘れるほど好奇心を刺激させることが有効な手段となります。アオリイカがエギに興味を持って近づいてきたとき、エギから少し離れたところで止まって、エギを確認するタイミングがあります。その確認が終わる前にエギをアオリイカから少し遠ざけてみましょう。少し距離をとってエギを止めておくと、アオリイカは再びエギに寄ってきます。このように、わざと移動させては止めるといった動きを繰り返し、場合によっては、いったん回収して、また投入を繰り返す。こうしていると、アオリイカがじれてくるのが分かります。確認もそこそこにエギを襲ってくるようになるまでアオリイカをじらし続け、最後に少しスキをみせるようにエギの動きを止めておけば一気にエギを抱きにくるというものです。興奮したアオリイカは、激しく体色を変えながらエギを追い回し、止まってエギを確認する距離は徐々に縮まってきます。ついには足下だろうが表層だろうが、触腕が届く間合いであれば、お構いなしにエギに襲いかかってきます。もちろんいつも上手くいく作戦ではありませんが、この駆け引きのタイミングをモノにすることで、エギングの引き出しが格段に増えるに違いありません。
釣れる時間帯について解説致します。
アオリイカと日光について、アオリイカは日光を好まないので、日が沈んでいる間が基本の釣りタイムとなります。しかし、日中でも夜間と同じように釣ることができるのはなぜでしょうか。理由は以下の通りになります。
活性が上がってエサを追い求める。
曇り空で日中でも薄暗い。
水深が深く日光が届かない。
海に適度な濁りがある。
このように条件さえ揃えば昼でも釣ることが可能です。しかし、晴天下ではやはり釣果が落ち気味になるので効率よく狙えるのは午前中や夕方になります。
時間帯による釣果について、アオリイカ狙いの釣行では、夜間を狙うアングラーが一番多くなります。実績からみても夜間の方が日中よりも高いためでありますが、仕事帰りに行けるという手軽さもあります。しかし、実際には時間帯だけで釣れるのではなく、潮汐と密接な関係があります。例えば日が暮れて1~2時間後に満潮時が重なる日は釣果がよいとされており、逆に干潮だと期待が薄いとされています。このように潮を読んで釣りに出掛けられればよいのですが、その日だけ釣るというのももったいない話しです。結果的に自分のスケジュールに合わせた釣行計画となります。
時間帯によるアオリイカの移動は次の通りです。
まづめ時は海全体のゴールデンタイム。生き物の活性が上がり、釣りでは一番の時合となりやすいです。
日が昇ると日光が直接当たらない場所へと移動します。水深3~15m付近が狙い目です。
日が沈むとベイトが多い浅い場所へと徐々に移動していきます。
まづめ狙いについて、朝夕のまづめ時は、アオリイカが岸近くをうろついていることが多いです。このため、エギは足下まで丹念に探っておきましょう。また、明るくなる前や暗くなる前はベイトの活性も上がっているので、アオリイカの行動も活発になります。遠投を中心とするのではなく、ストラクチャー周りを中心に手返しよく狙ってみましょう。
日中狙いについて、底が透き通って見えるような状況では、岸近くまでアオリイカが寄ってくることは少ないです。従ってロングキャスト主体の釣りとなります。できるだけ水深が深いエリアを探るようにして、海底に藻やストラクチャーがある場所を重点的に狙いましょう。潮の流れも重要で、潮が速すぎるのはだめですが、適度に流れている場所がいいです。
夜間狙いについて、夜間はアオリイカの行動範囲も広がり、積極的にベイトを追い求める時間帯です。この習性を考慮して、広範囲を探るようにしましょう。意外と足下付近に寄ってきていることもあるので、足下まで丁寧に引くの繰り返しで狙いましょう。夜間はまづめと日中釣りの総合的なものと考えればいいと思います。
月夜と闇夜について、月夜はベイトが浮きやすいためアオリイカも中層~水面を意識しましょう。こんなときはボトムを取らずスイミングも有効です。闇夜は常夜灯周りにベイトが集まるので絶好のポイントになります。月夜は「上層」、闇夜は「常夜灯」がキーワードになります。
天候や気圧と活性の関係について解説致します。
雨の恵みは条件次第について、雨が降るとベイトの活性が上がり、水面の雨音によってアオリイカの警戒心は薄れるため釣りやすくなります。しかし、条件によっては逆にまったく釣れなくなることもあります。アオリイカは塩分の濃度変化に弱く、真水を嫌います。大量の雨が降ると川からの真水の流入が増え、水面を覆い尽くしてしまいます。近くに大型河川がある釣り場はかなり広範囲に影響を及ぼすことも考えられるので、地形を把握し影響を受ける場所は避けましょう。もう1つの条件は水温になります。秋~冬の低水温期の雨は水温をさらに下げるため、アオリイカの活性も下がり、深場へ移動したりボトムでじっとしています。春先の雨は水温を上げるためベイトの活性が高まりイカの活性も上がります。夏の雨は上がり過ぎた水温を下げ、高水温を嫌って深場に潜んでいたイカを誘い出してくれることもあります。秋~冬と春~夏では雨が逆の効果をもたらしています。
ナギの日がベストについて、波が高くウネリがあるようなときはイカも障害物の影や深場に潜むことが多くなります。ボトムやディープ狙いに徹することになりますが、そもそもそのようなコンディションではアタリが取りづらいため、港湾内などの波が落ち着くポイントを攻めた方がよいでしょう。アオリイカが活動しやすいのはベタナギ〜さざ波が立つ程度になります。
気圧とイカの活性について、大気の圧力が高い状態を「高気圧」、低い状態を「低気圧」と呼び、その変化は空気中のみならず水面下にも影響を及ぼします。アオリイカ自身への影響もありますが、ベイトの動きによるものが大きいです。気圧が高くなればベイトは底へ移動するため、アオリイカも底層を意識し、低気圧は逆に上層を意識しています。高気圧時は晴れていることが多く、低気圧時は雨が多いので、水温などの条件によっても変わりますが、晴れているときは底中心、雨のときは上層を中心に攻めてみましょう。
アオリイカ雑学について解説致します。
名前の由来について、アオリイカの『アオリ』とは、馬の鞍の下に掛ける泥よけの馬具のことで、漢字で「泥障」と書きます。これにヒレの形が似ていたことからアオリイカの名が付けられたと言われています。他に、ヒレを大きくあおって泳ぐことから名付けられたという説もあります。地方名では、芭蕉 (バショウ)の葉に姿が似ていることから「バショウイカ」、靴の形に似ていることから「クツイカ」、水のように透き通って半透明なことから「ミズイカ」、卵を藻に産み付ける習性から「モイカ」などと呼ばれています。英語名では、『大きなヒレを持ち珊瑚礁にすむイカ』という意味の 「Bigfin Reef Squid(ビッグリーフスクイッド)」 が正式名称となります。『だ円形のイカ』という意味の「Oval Squid(オーバルスクイッド)」と呼ばれることもあります。 Squid(スクイッド)とはヤリイカ類の総称でコウイカ類のCuttlefish(カトルフィッシュ)と区別されています。「イカ」の呼び名については、見た目の「いかつい、いかめしい」様子から来たとされる説や、よく泳ぐことから「行か(いか)」とされたなど諸説あります。漢字表記の『烏賊』の由来は、死んだふりをして水面に浮かんでいるイカを食べに来た鳥(カラス)を逆にイカが食べてしまったという言い伝えから、烏を賊する (害する) 生物の意味の当て字になったとされています。
カラストンビの謎について、イカ・タコ類のクチバシの呼び名 『カラストンビ』の由来は、上アゴと下アゴそれぞれの形状がカラスとトンビのクチバシに似ているところからきています。捨てられることも多いですが、周りの肉は歯ごたえがあり、珍味として珍重されています。また、カラストンビはキチン質といわれる堅いタンパク質からできていて消化されにくい性質を持っています。マッコウクジラの体内から龍涎香(りゅうぜんこう)という非常に希少で高価な香料がとれますが、これはマッコウクジラが捕食したイカ・タコ類のカラストンビが消化されずに残り、経年によって石化したものです。
イカスミの秘密について、セピアカラーのセピアとはイカのスミから作られる暗褐色の絵の具のことです。まだインクや染料が普及していなかった時代は代用品としてイカスミが用いられていたといいます。スミはイカ・タコ類のトレードマークとも言えますが、イカスミとタコスミでは役割が違います。外敵に襲われた際に吐くという点では共通していますが、イカスミは粘性が高く水中でもすぐに拡散しないため、スミを自分の分身として使い敵を惑わせてその間に逃げます。一方、タコスミは拡散しやすく、単にめくらましとして煙幕のように使います。スミ自体の旨味に関してはタコスミに軍配が上がるようですが、イカスミの方が採取しやすく取り扱いも簡単なため、イカスミ料理はあってもタコスミ料理はほとんどありません。イカスミ自体は無毒ですが、活かしバケツなどの中でイカがスミを吐くと死んでしまいます。これは、粘性の高いスミがエラに詰まり呼吸困難を起こすためだと言われています。長時間活かそうと思うならスミが充満しないよう海中で活かすなどの工夫が必要です。
液晶の原料はイカについて、テレビや携帯の画面などで使用されている液晶。その一種である「コレステリック液晶」を作るのにイカの内臓から抽出したコレステロールが使われています。以前から寒暖計の液晶などに利用されていましたが、電気を使わずに表示を持続できるという特性から、近年では電子ペーパーなどへの活用が研究されています。イカ液晶を持ち歩く日は近いかもしれません。
今回の授業は以上となります。アオリイカを釣るためには、まずは、アオリイカのことを知ることです。釣れないということはまだアオリイカのことについて復習する必要があるかもしれません。
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